|
国外感染例の報告状況
感染症法に基づいて実施されている感染症発生動向調査の対象疾患のうち、11種類のワクチン予防可能疾患の報告症例について、国外感染例のデータを集計・解析した。
1999年4月の法施行から2007年の期間において、髄膜炎菌性髄膜炎は2例報告があり、推定感染国はオーストラリア(血清型不明.60代男性)、エジプト/スペイン/フランスのいずれか(血清群B群.20代男性)であった。後者は、発症日と旅行日程、ヨーロッパの流行血清群がB型であることから、スペインでの感染の可能性が最も高いと思われる。破傷風は3例報告があり、推定感染国は米国(60代男性)、ウクライナ(50代男性)、フィリピン(30代女性)で、ウクライナとフィリピンの2例の「最近の主な居住地」は感染国であった。狂犬病は2例報告があり、感染国はともにフィリピン(ともに60代男性)で、1例はフィリピンへの渡航回数が複数回あり、もう1例は2004年からフィリピンに居住していた人である。急性灰白髄炎、ジフテリア、黄熱、日本脳炎の報告はなかった。
 
コレラ、腸チフス、A型肝炎、B型肝炎の4疾患は、表1にみられるように毎年複数例の国外感染例の報告がある(コレラと腸チフスの疑似症例の除外が可能であった2004年から2007年までの報告数を表示した)。コレラ、腸チフス、A型肝炎は報告数の年次変動が認められるが、この要因としては、渡航地の流行、渡航者の免疫状態、また2007年のコレラの著明な減少については検疫法対象疾患から除外されたことの影響など、複数考えられ、特定することは容易ではない。性差(男/女比)と年齢を表2に示した(日本からの渡航者について解析することを念頭に疑似症が除外でき、かつ、居住地情報が報告されていた2004年及び2005年の

報告を集計対象とした)。国外感染例は、4疾患すべてで男性が多く、年齢中央値はコレラ42.5歳、腸チフス23.5歳、A型肝炎34.5歳、B型肝炎43.5歳であった。
国外感染例の感染地域を図に示した。感染国は4疾患すべてでアジアが大半を占めるが、詳細地域分布は疾患により異なった。コレラは東南アジア(66%)、南アジア(28%)、東アジア(4%)の順に、腸チフスは南アジア(70%)、東南アジア(23%)の順に、A型肝炎は東南アジア(38%)、東アジア(21%)、南アジア(19%)の順に、B型肝炎は東アジア(50%)、東南アジア(37%)の順に多いかった。感染国では、コレラはフィリピン(45例)、インド(23例)、インドネシア(9例)、タイ(7例)の順に、腸チフスはインド(26例)〔インドを含む複数国記載のものを合わせると32200例〕、ネパール(8例)、バングラデシュ(7例)、フィリピン(7例)、インドネシア(6例)の順に、A型肝炎はフィリピン(11例)、インド(8例)〔インドを含む複数国名記載のものを合わせると9例〕が多いが、推定された国名が23カ国と他の3疾患と比べて多く、さまざまな国での感染が推定されている特徴が見られた。B型肝炎は中国(11例)〔他に中国/ベトナム(1例)〕、タイ(6例)、韓国(4例)、フィリピン(4例)の順に多い結果であった。さらに、アジアの主要渡航国12カ国(中国、韓国、タイ、インドネシア、フィリピン、マレーシア、ベトナム、カンボジア、インド、ネパール、パキスタン、バングラデシュ)を対象に罹患率の推計を試みた。分母には、国際観光振興機構(JNTO)が把握している当該期間における各国別日本人訪問者数を用いた。コレラではインド(渡航者10万人対12.0)、次いでフィリピン(同5.6)、パキスタン(同3.6)での罹患率が高く、腸チフスではバングラデシュ(同51.0)が著しく高いが、これは2004年に同一ツアーで6例の集団発生があったことが影響している。次いでネパール(同20.8)、インド(同15.5)、パキスタン(同10.9)で高く、A型肝炎ではインド(同4.5)、フィリピン(同1.6)で高く、B型肝炎ではフィリピン(同0.6)、タイ(同0.3)、中国(同0.2)の順であった。罹患率は、渡航国の流行状況、滞在期間、リスク行動、自然免疫とワクチン接種の有無などさまざまな要因により変動すると考えられる。今回の罹患率算出には、これらの要因を調査できていない制限があるが、算出した4疾患の渡航国別罹患率をみると、コレラのインド、腸チフスのバングラデシュ、ネパール、インドが、渡航者10万人対10人を超えました。両疾患は国内感染が少なく、ワクチン接種を受けた者も非常に少ないと考えられるので、この罹患率値は少なくとも自然感染やワクチン接種による修飾の少ない状態の罹患率に近いものと思われる。腸チフスについては、治療に比較的長期間を要すること、世界的にもニューキノロン耐性の増加がみられていることを念頭におく必要があり、インド亜大陸への渡航やリスク行動が予測される場合などでは、ワクチン接種を考慮すべきと考える。
感染症に対する知識と情報入手方法
渡航者に対して効果的な啓発の一助とすることを目的に、過去3年間に海外渡航歴のある者、または将来1年間に海外渡航の予定のある者に対して、同上の11種類のワクチン予防可能疾患について、1)知識(流行地域、初期症状、感染経路、致死率、予防策)、2)予防可能ならその予防に支払う金額、3)感染症に関する情報収集(情報収集の有無、情報入手方法)に関するアンケート調査を行った。
アンケートは全国から無作為に抽出した調査会社のパネル(調査協力者)に対して、Web利用(20〜59歳、26,000人)およびはがき送付(60代、5,000人)により実施した。前述の渡航に関する条件に合致する者として、web利用者では1,792人から回答が得られ、はがき送付者では条件の合致する375人に調査表を再送付し329人から回答が得られた。合計2,121人中、性・年齢の把握できた2,106人〔男性888人(平均年齢45.0歳)、女性1,218人(平均年齢46歳)〕を対象に集計した。
アンケートの結果、@短期滞在の旅行が多い(過去の渡航では8日以下が70%、予定している渡航は1〜2日が約半数)、A「アジア・オセアニア」への渡航が多い、B感染経路や致死率についての知識は十分といえない〔感染経路の正解率は狂犬病72%、腸チフス54%、コレラ52%の順。致死率の正解率は、狂犬病41%(本調査の直前に日本での発症・死亡が報道有り)、その他はすべて30%未満〕、C予防対策に対して費用負担しようとする金額は低い(予防効果が100%の仮定のもとでも、予防対策に支払う額は11疾患全てにおいて、大半の者が1,000円と回答)、D情報の入手方法としては60歳未満においてはインターネット、60代ではパンフレットが最も多い、などが分かった。
海外渡航者が感染症の知識を持ち、感染症対策を行うことは重要であり、感染症に関する情報を渡航者に効率よく届けるためには、インターネットやパンフレットによる情報提供、さらには携帯電話で容易にアクセスできる方法の確保や、旅行業者、雇用者を海外派遣する企業、修学旅行する学校からの啓発活動も考慮に入れるべきである。
|