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はじめに
海外渡航者は年々増加し1,700万人を超え、3か月以上の長期滞在者も100万人を超えている。特に近年開発途上国への渡航者が増加している。このように海外旅行は非常に身近になった。また、日本においては多くの伝染病が公衆衛生の向上とともに制圧され、伝染病の国内罹患者数は著しく減少している。しかし、海外特に途上国では未だに感染症が流行し感染の機会が多い。当然のことながら日本で生活している限り脅威といえない感染症に対する国民の意識は乏しく、感染症に対する予防策に関する意識も非常に乏しい。また、旅行業者は旅行費用の安さの宣伝を競い、残念ながら感染症の脅威について積極的に広報しているとは言えない。そして、日本の海外旅行者は、渡航時にこのような伝染病にしばしば感染している。狂犬病に罹患して命を奪われた渡航者の報道は記憶に新しい。
しかし、日本ではマスコミも含めて予防接種の稀な副反応について強調するあまり、予防接種が従来から人類に果たしてきたすばらしい貢献をも否定するような実に理解に苦しむ状況をしばしば目にする。このような状況のなか日本では、国内であまり見られない感染症に対する予防策、とくに予防接種はなかなか承認されない状況である。したがって、欧米先進国では多くの海外渡航者が渡航前に予防接種を受けているが、日本では未承認であるため渡航前に接種できないワクチンが多い(表1)。本来渡航前に予防接種を行い、十分な抵抗力をつけてから渡航地に出向くのが当然であるが、日本の現状はゆゆしき状況と考えられる。先進国を自負する本邦において速やかに現状が改善されることが望まれる。
表1 日本で市販されているワクチンと主な未承認ワクチン

海外渡航者の予防接種率
厚生労働省科学研究補助金(新興・再興感染症研究事業)「海外渡航者の予防接種のあり方に関する研究」班(以下研究班)における海外渡航者の予防接種率に関するJICA、巡回医師団、日本人会診療所に対するアンケート結果を図1に示す。JICAの渡航者は、巡回医師団相談者や日本人会診療所受診者より予防接種率が高く予防接種に対する意識が高いことが分かる。図2に欧米と日本の主なトラベルクリニックの最近の受診者数を示す。欧米の渡航者の意識の高さを表している。
しかし、未承認ワクチンである腸チフスワクチンの接種率は、JICAの渡航者においても著しく低いことが分かる。したがって、多くの国民は承認されたワクチンにおいても重要性について意識しておらず、さらなる啓発活動の重要性が痛感される。また、未承認ワクチンは、予防意識の高い集団においても接種が困難である現状を如実に表している。医師が未承認ワクチンを接種しようとすると個人輸入する必要があり、さらに供給体制の不備と補償制度がないことが接種率の低下の主な原因であると考えられる。
未承認ワクチンは邦人を対象とした十分なデータがないため、研究班では、これら未承認ワクチンのうち渡航者に優先性の高い腸チフスワクチンと髄膜炎菌ワクチンの約200例を対象とした臨床試験を行った。それぞれ、特に重篤な副反応はなく、欧米人と同様に安心して接種できる結果を得た。この臨床研究では研究班で個人輸入をして行った。個人輸入の手続きは煩雑ではあったが、コールドチェーンなど概ね安心して行えた。また、補償制度に関しては、輸入代行業者が自社補償制度を準備しており一歩前進した感がある。
おわりに
過去にはワクチン先進国であった日本が、残念ながらいつの間にかワクチン後進国の仲間入りをしてしまった。日本人も含めて人類は予防接種の恩恵を現在も受けるべきである。本来であれば渡航前に予防接種を行い、抵抗力をつけてから渡航地に出向く必要があるため、トラベラーズワクチンを容易に安全に接種できるように早急に改善する必要があると考える。幸い関係者の努力により日本において、ワクチンを含む医薬品の開発が迅速化される方向で話が進んでおり、近い将来欧米並にワクチンの恩恵をうけることができるようになることが予想される。さらに、日本のワクチン企業の開発力が養われ、日本が再びワクチン先進国になることを祈ってやまない。
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