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【はじめに】
THEKINGCLINICは先代が東京都港区に開業した和仁医院(英名:KING’SCLINIC)を基礎とする。先代院長は、上海市英国租界のShanghaiCountryHospital、敗戦後マッカーサーの招聘により日本においてGHQ医務部医官としての職務の経験を経て、以後6カ国語対応と欧米式医療で外国人診療を実践してきた。筆者は先代の精神を引き継ぎ、東京都渋谷区で診療を行っている。
当院の特徴はネイティブレベルでの英語と日本語を活かし、欧米的ロジックや受診者との多文化・多宗教的理解や共感を大切にしながら診療をしていることである。ワクチン接種の希望者を除くと、受診者の約8割以上はinboundtravellerを含む外国人が占める。
【診療内容】
1)プライマリケア
欧米式のロジック・理解・診察内容を求めて来院される方が多いため、急性期・慢性期を問わず多科にわたる主訴の受診者が来院する。一般に、外国人診療と呼ばれるが、当院は欧米人や英語圏の受診者が主体であるため、本稿では欧米人診療と呼ばせてもらう。ある意味、“InboundTravelMedicine”(帰国者向け医療)ではあるが、何十年も日本に居住している方も少なくないので、“travel”が必ずしも適切な呼称だとは思わない。
当院を受診する欧米人患者からよく耳にする日本の医療で感心することは、受診のしやすさ、安価な診療費、そして診療所レベルでもある程度の診断機器が充実していることである。当然、グループ・プラクティスのクリニックには及ばないものの、一部の先進国の一般開業医ではレントゲンやエコーなどの画像診断機器がない場合も少なくないと聞いている。また、言語・価値観・期待される医療サービスのギャップはあるものの、国保・社保の場合でも非常にアクセスがよいという定評がある。
その反面、彼らが日本の医療に抱く不満点は多岐にわたるが主に以下のようなものがあげられる。
1)質問している内容に対して、明確な答えを出してくれない。
2)診察にかける時間が短く、カーテン一枚越しでプライバシーがない。
3)症状があり、辛いから受診しているにもかかわらず、「大丈夫」、「どこもわるくない」といわれる。
4)言葉は通じても、価値観や、思考・イメージが異なる。処方量・日数が比較的少ない、など。
以上のような印象を抱いている欧米人を診療する際、重要なことは、処方や治療プロトコールを欧米の基準に合わせ、診察に当たっては最低20〜30分の時間をかけ、受診者の家族や住環境、宗教などの価値観を理解することが必須である。受診者の同意または希望がある場合は、保険不使用の自由診療を導入するのも得策である。技術的なことになるが、外国の保険も快く、フレキシブルに受け入れることも重要である。
2)健康診断・英文医療文書作成
定期健診、渡航前健診、日系企業の外国人職員健診、留学・査証健診、現地企業入社前健診、インターナショナルスクール健診、国際機関指定健診など。指定様式のない場合、多くの英文診断書などにはひな形など用意せず、その都度作文するようにしている。なぜなら、受診者は一人一人異なる人間なので、それが伝わるように、また、紹介先でも大切に見ていただきたいという願いを込めて作成させていただいている。また、ひな形を使用しないことにより、コピー&ペーストなどからくるミスプリントを防止するという利点もある。
3)トラベルメディシン
A)情報提供
当院のサイトなどを通じての情報提供は当然であるが、当院取り扱いのあるワクチンとその対象疾患の案内などを来院者に提供している。当院では情報が無料で、それに対するアセスメントやプロフェッショナルアドバイスが有料となる。
B)渡航前アセスメント
渡航先、目的・活動、期間、年齢、既往歴・現病歴、都市部・郊外、標高、動物との接触、現地の医療事情・治安、最新の感染症情報などをふまえた上で、コンサルテーションを行う。啓発活動としてのカウンセリングは必須である。常に、感染症情報のみならず、治安・選挙・宗教的行事なども、入手できる情報は把握できるように努力し、さらに、子ども連れの場合は小児のかかりやすい疾患の対応法や事故に遭わないように注意を促す。
C)予防接種・予防処方
以上の情報提供と相談の上、推奨される予防措置の方針が決まるので、最終的には受診者に選択決定していただく。あくまでも、受診者主導のinformeddecisionとなる。海外で居留される方などには、欧米の接種方法の紹介、接種部位と方法、製品の互換性なども説明している。マラリア予防薬に関しては、途中で内服を中止してしまわないように、現地出発後の4週間(メフロキン、ドキシサイクリン)がなぜ必要なのかなども伝えてからの処方としている。
D)帰国後アセスメント
帰国後の寄生虫感染などを含む消化器症状に時折遭遇するが、多くは、現地での治療の継続を希望されるケースが占める。
【取り扱いワクチン】
当院の取り扱いワクチンは、渡航目的、または留学目的のものを中心とし、小児ワクチンのうち、特に有用と思われるものに至る。その取りそろえは、国産は、生ポリオワクチンとワイル病を除くほぼ全種類と、輸入は以下のものが常備である。
1)破傷風・ジフテリア混合ワクチン(Td5または7歳以上)
2)破傷風・ジフテリア・百日咳混合ワクチン(DPT11歳以上、55歳未満)
3)A型肝炎ワクチン(1−18歳)
4)B型肝炎ワクチン(19歳以上)
5)不活化ポリオワクチン(IPV)
6)腸チフス ポリサッカライドワクチン(Vi)
7)髄膜炎菌髄膜炎4価ワクチン(ACWY)
8)狂犬病ワクチン(PCEC/LEPflury)
9)ダニ媒介脳炎ワクチン
10)インフルエンザb桿菌ワクチン(Hib)
11)肺炎球菌7価ワクチン(PCV7)
12)経口不活化コレラワクチン(4価)
13)点鼻弱毒生インフルエンザワクチン
14)ヒトパピローマウイルスワクチン(4価)
【輸入ワクチン】
個人輸入の手続きは煩雑で、個人開業医がその書類のすべてを記載・提出することは不可能ではないが、現地・輸送中・成田でのコールドチェーンの確実な確保は至極困難である。当院ではその心配を極力減らすため、輸入代行業者に委託している。
個人輸入であるが故のデメリットは、納入価、輸送費、在庫リスク、在庫管理、返品不可能、厳密な温度管理、輸入責任者のみが投与可能、などがあげられる。しかし、渡航者のメリットは大きく、トラベルクリニックとして、その取り扱い責務は重要と考える。
輸入ワクチンの特徴、法的立場、輸入責任者が投与するなどの規則を受診者に説明し、接種時にはロット番号と有効期限を受診者とともに確認し、同意書に記入していただいている。当然、開封・調剤は受診者の目の前で行っている。

【接種記録】
当院で予防接種を受けられた方には、初回のみWHO監修“InternationalCertificateofVaccination”のWHO発行または米国発行のいずれか(またはご持参された用紙・記録帳など)に日英2ヶ国語で記載し無料で配布している。いずれもInternationalHealthRegulati-
ons(IHR)準拠なので黄熱病の公式記録用としても使用できる。
表のように、2007年5月にIHRの改訂により、記録帳のデザインに若干の変更が加えられた。本稿では記入例を表1に紹介する。
【おわりに】
外国人診療、とくに欧米人診療においては言葉だけでなく、生活や価値観まで含めた思想の共有、病状の共感、そして時間を充分にかけた親身の診療が不可欠である。また、良質の医療サービスを提供すること、それが可能な医療機関にのみ紹介するなど、学閥・地域を超越した連携なしには、欧米人診療は成立しない。
ワクチン接種においてしばしば遭遇する困難は、接種スケジュールや接種方法などの原則が日本と外国で異なることが多いこと。後者は同時接種、同肢への複数接種、異なる製品同志の互換性、妊婦への使用、免疫不全者への使用など多岐にわたるガイドラインやエビデンスが紹介・発行されているが、日本では理由を明記したガイドライン等は目立たない。海外との接種互換性、渡航前の限られた時間内で最大限の安全を確保するため、さらに、医療機関を通じて異なる手法が生み出す受診者の不信感を払拭するためにも、一日でも早く、これらの策定・導入、国内(可能なら国際レベルで)の統一が望まれる。
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