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Word Focus TOPページへ戻る  No.97       (第11回トラベラーズワクチンフォーラム報告) 
<<トピックス>>
  ウエストナイルワクチン
    
        財団法人 阪大微生物研究会
        観音寺研究所・副理事
    石川 豊数
                      

はじめに
 ウエストナイルウイルスは、1937年ウガンダのウエストナイル地方で最初に分離されたことからウエストナイルウイルスと命名されている。このウイルスは、アフリカ、ヨーロッパ、中東、西アジア、アメリカ(米国、カナダ、メキシコ、コロンビア)に分布している。
 ウエストナイルウイルスは、多くの種類の鳥(米国では200種以上)に感染し、鳥を吸血する多くの種類の蚊(米国では40種以上)が媒介して鳥・蚊・鳥の感染環で感染が繰り返されている。ヒトにウイルスを媒介する蚊は、鳥類だけでなく哺乳類も吸血対象とする蚊である。ヒト以外の哺乳類ではウマ、イヌ、ネコ等にも感染するが、これらはウイルスの供給源とはならない。蚊が媒介するフラビウイルス感染症で、ウエストナイルウイルスほど多くの種類の蚊が媒介するウイルスはなく、日本にも分布しているアカイエカやヒトスジシマカ等もウイルスを媒介することから、日本への侵入が危惧されている。
 1999年に米国で鳥の死亡、患者発生が報告されるまでのウエストナイルウイルスは鳥にも病原性を示さず、ヒトが感染してもほとんどが不顕性感染であり、症状があっても発熱程度で脳炎や死亡には至らない病気と考えられていた。このため、ワクチンの必要性はほとんど議論されてこなかったが、米国における高病原性のウイルスの発生を契機に世界的に注目されるようになった。
 
世界におけるワクチン開発の現状
 ウエストナイルウイルスは、フラビウイルス属の日本脳炎血清型群のウイルスである。この群のウイルスの遺伝子配列はよく似ていることから、ウエストナイルワクチンを開発するには、すでに開発されている日本脳炎ワクチンの製法を参考にすれば容易であると考えられる。
 不活化ワクチンとしては、動物(ウマ)用ワクチン(アジュバントを含む)が既に米国で使用されているが、ヒト用のワクチンは未だ実用化されていない。現在、国内では我々と化学及血清療法研究所が日本脳炎ワクチンに準じた製造方法で開発を行っている。
 生ワクチンでヒト用のワクチンとして最も開発が進んでいるのはキメラウイルスワクチンである。このワクチンは、黄熱病の生ワクチンである弱毒株:17D株のPrM・E蛋白をコードする遺伝子をウエストナイルウイルスの遺伝子と入れ替えたキメラウイルスであり、米国においてヒトでの臨床試験が進んでいる。これとは別に、キメラウイルスのベースとして、同じフラビウイルスである日本脳炎ウイルス、デングウイルスを用いたワクチンの開発も行われている。また、遺伝子組換え技術を用いて、ウイルス様粒子(VLP)を発現させワクチンとするものや、DNAワクチンも研究されているが、いずれも実用には至っていない。
 以下、我々が開発している不活化ワクチンについて紹介する。
 
我々が開発しているワクチン
 我々は10年以上前からマウスの代わりにアフリカミドリザル腎臓由来の株化細胞であるVero細胞を用いた不活化日本脳炎ワクチンの開発を行っている。ウエストナイルウイルスは、日本脳炎ウイルスと近縁であることから、日本脳炎ワクチンと同じ製造方法で開発が可能であると考えた。また、この方法であれば、バイオハザード対策も容易である。
1.製造用種ウイルス
 ワクチンの製造に使用するウイルスは、1999年にニューヨークのフラミンゴからVero細胞を用いて分離されたNY99-35262-11株である。分離後、蚊由来のC6/36細胞で6代継代増殖させたものを、長崎大学熱帯医学研究所の森田公一博士がC6/36細胞にさらに1代継代して増殖させたものを、我々が分与を受けた。
 その後、Vero細胞を用いてプラーククローニングを3回行った後、プラークサイズの大きい増殖性の良いクローンを選択し、製造用のオリジナルウイルスとした。オリジナルウイルスをVero細胞で1代継代増殖させたウイルスをマスターシードとして凍結乾燥して保存し、さらにVero細胞で1代継代増殖させたウイルスをワーキングシードとして凍結保存した。製造には、このワーキングシードをその都度取り出して使用した。
2.製造用細胞
 Vero細胞は、ヨーロッパでは古くから不活化ポリオワクチンの製造用細胞として使用され、ポリオワクチンとしてこれまでに膨大な数のヒトに接種されてきた実績がある。我々が製造に使用するVero細胞は、AmericanTypeCultureCollection(ATCC)から購入後、静置培養法で5代培養した細胞をマスターセルバンク(126代)、さらに静置培養法で4代、マイクロキャリア法で2代培養した細胞をワーキングセルバンク(132代)として保存した。ワクチンの製造には、ワーキングセルバンクをその都度取り出し、静置培養法で2代、マイクロキャリア法で4代培養した細胞(138代)を用いる。
3.ワクチンの製造方法
 マイクロキャリア上で増殖させたVero細胞にワーキングシードをm.o.i.約0.01になるように接種し、牛血清を含まない培養液で37℃、3日間培養する。その培養上清を採取し、細胞片を除いた後、限外濾過膜を使用してウイルス液を濃縮し、ホルマリンを1/1000量加えウイルスを不活化する。その後、プロタミン処理、蔗糖密度勾配遠心を2回行なうことによりウイルスを精製し、安定剤としてアミノ酸を添加した後、濾過したものをワクチン原液とする。
 ワクチン原液を所定の濃度になるように希釈し、安定剤を加え、凍結乾燥したものがワクチンである。ワクチンは、チメロサールや2−フェノキシエタノール等の防腐剤は使用しておらず、凍結乾燥製剤にしたことにより非常に優れた安定性を有している。
4.ワクチンの安全性
 ワクチンは、GLP適合下で安全性薬理試験として、ラットでの腎機能または呼吸器に及ぼす影響を調査し、問題がないことを確認した。さらに、GLP適合下での毒性試験として、ラット・イヌを用いた単回投与毒性試験、ラットでの反復投与毒性試験、ウサギを用いた筋肉内刺激性試験を実施し、問題がないことを確認した。
5.ワクチンの有効性
 ワクチンを80倍希釈した後、さらに2倍階段希釈し、7日間隔で2回マウスの腹腔内に0.5mlずつ投与した。2回投与後7日目に採決し、その血清中の中和抗体価を測定することにより抗体産生能を調査した。その結果、ワクチンを80倍希釈した試料を投与したマウス血清中のウエストナイルウイルスに対する中和抗体価は約600倍を示し、その血清は日本脳炎ウイルスに対してもわずかに中和活性を示した。また、日本脳炎ワクチンとウエストナイルワクチンを混合して投与した場合は、それぞれが干渉することなく良好な抗体産生能を示すことも確認された。
 また、日本脳炎ワクチンまたはウエストナイルワクチンを7日間隔で2回0.5mlずつマウスの腹腔内に投与した。2回投与後14日目にそれぞれの群のマウスを2等分し、一方には日本脳炎ウイルスJaOArS982株を、他方にはウエストナイルウイルスNY99株を腹腔内に攻撃して防御能を調査した。その結果、ウエストナイルワクチン投与群のマウスは、ウエストナイルウイルスの攻撃に対して全てのマウスが生残した。一方、日本脳炎ワクチン投与群のマウスは日本脳炎ウイルスの攻撃に対しては全て生残したが、ウエストナイルウイルスの攻撃に対しては1匹が生残したのみであり、生残したマウスも麻痺が観察された。これらの試験から、ウエストナイルワクチンの有効性がマウスにおいて確認できた。
 
考察
 上述したように、我々が開発しているVero細胞を用いた不活化ウエストナイルワクチンは安全性及び有効性とも問題がなく、実用的なワクチン候補であると考えられる。
 しかし、今後このワクチンを日本で開発していくにあたり、日本にはこの感染症がない状況下でワクチンの有効性をどう評価するか、また、多額の費用を必要とする臨床試験を誰が実施するかという問題がある。
 技術的にはワクチンの開発が可能であっても、製品化していくにはこのような問題をどう克服していくかが開発の課題である。

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