|
はじめに
厚生労働省からの感染症対策受託事業の一環として、NPO法人バイオメディカルサイエンス研究会〈バムサ〉がインフルエンザ等の市民相談窓口業務を担当するに至った経緯についてはすでに報告1)、2)しているが、2003年から2007年にわたってインフルエンザシーズンの市民相談窓口がバムサ内に開設された。
2003年から2007年までのインフルエンザは、流行の規模、流行の時期、流行した株および患者報告数がシーズン(10月〜翌3月)毎で異なった3)−6)。
また、4シーズンでワクチン製造に用いたA型、B型のワクチン株は、A/H1亜型は4シーズンとも同じ株であったが、A/H3亜型はシーズン毎に異なり、またB型も2006/07シーズンは、2年間製造に用いた(山形系統株からVictoria系統株へ)株を変更して製造された。
このような状況下で開設された電話相談窓口には市民からどのような相談がよせられたのか、相談窓口としてどのように取り組んだのか、2003/04、2004/05シーズンに窓口が受けた相談件数と相談内容を詳細に解析したデータ、さらに情報の提供のあり方についての検討はすでに報告7)、8)してあるが本報告はあらためて4シーズン全体について概説する。なお窓口は一般市民向けであったが、医療従事者からの相談も毎シーズンあったため、最後に医療従事者からの相談についても紹介する。
1.相談者の性別・年代・居住地・職種
4シーズンに窓口に寄せられた全相談件数(Eメール、FAXを含む)は8,422件(1シーズン平均2,100件)であった。相談者の性別、年代、居住地、職種は各シーズンとも数値には差はあるがそれぞれの内容に変動は見られなかった。
相談者は女性が約70%を占め、年代は男女共30代が最も多く、次いで40、20、50、60、70、10代の順であった。
居住地別8)では東京、神奈川、埼玉、千葉及び大阪は毎シーズンとも件数は多かったが、2004/05シーズンに相談のなかった島根、佐賀を除くと毎年全都道府県から相談を受けた。また、海外在住者からの相談も受けた。
職種別では主婦からの相談が多く(約50%)、以下民間企業(約20%)、医療従事者(約8%)、学校関係、行政機関、メディアと続き、各年共に順位の変動はなかった。
2.相談件数と相談内容の推移
インフルエンザに関するメディアの報道があった翌日等は、相談を多く受けることもあったが、4シーズンの月別の相談件数と相談内容には一つの傾向が見られた。4シーズンともワクチンに関する相談件数は10月から12月にかけて最も多く、その他インフルエンザに関する一般的な質問は1月から3月に集中した。2004/05シーズンは1月中旬から2月に相談件数が増加したが、他のシーズンではこの時期の増加は見られなかった。また、2006/07シーズンは、流行の時期が遅れたためかあるいは相談窓口の開設時期が11月から3月末の期間であったためか、他のシーズンに比べて相談件数は減少したものの、月別の相談内容の傾向は他のシーズンと同様であった。なお、2003/04シーズンでは10月から1月にかけては重症急性呼吸器症候群(SARS)、1月から3月は鳥インフルエンザに関する相談を多く受けたがその後、SARSは終息し、また鳥インフルエンザの発生も少なかった他のシーズンではこれらに関する相談件数は減少した。
抗インフルエンザ薬に関する相談は、2004/05シーズンでは2月に集中したが、2004/05シーズン以後は月別による大きな差はみられなかった。
鳥インフルエンザ、新型インフルエンザに関しては、国内外の動向を伝えるメディアの報道がいかに市民に与える影響が大きいかが分かった。
3.ワクチンに関する相談
4シーズンを通して相談件数が最も多いのはワクチンに関する相談で、全相談件数の半数以上を占めた。 全シーズンを通して、接種の是非、接種回数、副反応、妊婦への接種、授乳中の母親、乳児、幼児、高齢者への接種の相談が多くよせられた。
一方、2005/06シーズンでは、現行のインフルエンザワクチンで鳥インフルエンザや新型インフルエンザの予防が可能かを含めたワクチンの効果や効力の持続期間に関する相談も多く受けた。
毎年相談件数の多い接種の是非に関しては、個人で抱える問題が異なるため、相談者の状況を理解した上での回答が必要であった。
また、主婦からの相談で多い妊婦とワクチン接種に関する問題では、妊娠の安定期に入った時期の問い合わせもあるが、妊娠前や妊娠が判明する直前、直後に接種した相談者の抱える不安、また脳症や肺炎を恐れる乳児、幼児、高齢者を抱える家族の不安に対しても個々の状況に応じた適切な回答が要求された。
4.抗インフルエンザ薬に関する相談
抗インフルエンザ薬に関する相談者の性別、年代、居住地、職種等は、前述の全相談件数を集計した成績と同じ傾向が見られた。
主婦からの相談内容は妊婦、授乳中の母親や乳児、幼児、高齢者の服用の是非、服用期間、副反応、有効性に関する相談の他、予防薬としての服用さらには服用による耐性ウイルスの出現等に関する相談を受けた。同様な相談は他の職種(民間企業、学校関係、自由業等)からもあった。
5.医療従事者からの相談
毎年、インフルエンザシーズン中には国立感染症研究所感染症情報センター内に行政、地研、保健所向けにインフルエンザ相談ホットラインを設置し対応している。はじめに述べたようにバムサの電話相談窓口は主として一般市民を対象としているが、毎年約8%は医療従事者からの相談を受けた。窓口では出来る限り相談に応じたが、慎重を期する相談については感染症情報センターへ回答を依頼した。
相談窓口で受けた医療従事者からの相談は2003/04シーズンではSARSの流行状況、症状、伝播経路に関するものが多く、2004/05シーズンも件数は減少したが同様の相談を受けた。しかし、SARSの終息と共にその後のシーズンではこの件に関する相談はなかった。また、2003/04シーズンはワクチン接種希望者がいるにもかかわらずワクチンが入手できないため、入手方法についての問い合わせがあった。
毎年、多く寄せられた相談は流行状況に関する問い合わせの他、ワクチンの効果、接種の是非、接種回数、妊婦への接種、抗インフルエンザ薬の予防薬としての使用、投与期間、副反応、妊婦や授乳中の母親への処方の是非、また院内感染対策を含めたかなり専門的な内容のものであった。
鳥インフルエンザや新型インフルエンザについては発生状況のみでなく抗インフルエンザ薬、現行のワクチンの予防効果についての質問を受けた。
インフルエンザの流行期ではワクチンの効果、有効期間についての問い合わせ、ウイルスの潜伏期、排泄期間についての質問は患者の登園、登校、出社の時期を決めるのに必要とされた。また、ワクチンの製造株や流行株が毎年変わるのは何故かなどの質問も受けた。
再感染に関する相談では1シーズン中に同じA型(A/H1亜型、A/H3亜型)に感染することがあるのか、A型とB型に同時に感染することがあるのか、さらにA型に感染した後にB型に感染することがあるのか等の質問も多かった。
おわりに
市民相談窓口を担当し個人的な意見を述べさせていただく。
私がインフルエンザワクチンの国家検定、毎シーズンのワクチン株の選定や研究に追われていた現役時代は現在のようなインターネットによる情報公開もなく、どこからか回されてきた市民からの相談は実験の手を止めて対応していた。その当時は相手側の立場など考えるゆとりはなかった。
その反省に立って、窓口業務を担当し、相談者に責任のある適切な情報を提供するよう努めてきた。
一方、相談者から受けた問題提起(例えばワクチン不足など)はそのままにすることなく、行政や研究機関に提言してきた。
その結果、提言した問題が改善されている状況をみるときこの上ない喜びを感じる。
相談窓口を進めるに当たり、国立感染症研究所感染症情報センターの協力を得た。
参考文献
1)WORLDFOCUS38、2002、1-3
2)バムサ会誌 vol.16、bS2005、1-2
3)病原微生物検出情報(IASR)月報 vol.25、11、2004、1-2(278-279)
4)病原微生物検出情報(IASR)月報 vol.26、11、2005、1-2(287-288)
5)病原微生物検出情報(IASR)月報 vol.27、11、2006、1-2(293-294)
6)国立感染症研究所感染症情報センター ホームページ http//idsc.nih.go.jp/index-j.ht.ml
7)病原微生物検出情報(IASR)月報 vol.26、11、2005、10-11(296-297)
8)感染症学雑誌 第81巻 第4号(印刷中)
|