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劇症型溶血性レンサ球菌感染症
     滋賀県衛生科学センター     
     微生物専門員 石 川 和 彦    

劇症型溶血性レンサ球菌感染症とは
 劇症型溶血性レンサ球菌感染症は感染部位の皮膚や筋肉に壊死が見られることから、別名「人食いバクテリア」と呼ばれて恐れられています。その症状は、四肢の疼痛などから始まり、数時間以内には手足の壊死、それに伴うショック、多臓器不全などを併発し死に至る恐ろしい疾患で、致死率が約30%と非常に高い感染症です。基礎疾患として、がん、糖尿病、肝疾患などが挙げられていますが、一般的には病気になるまでは健康でふつうの生活を送っている人が多く見られます。子供から大人までの広範囲な年齢層の人が劇症型溶血性レンサ球菌感染症に罹っていますが、特に30才以上の大人に多く60才代にピークを持つのが特徴の一つです。(IASR. Vol.25. 10, 2004)

原因となる病原菌は
 劇症型溶血性レンサ球菌感染症の原因菌はA群溶血性レンサ球菌で、小児の咽頭炎の原因として日常的に検出される病原菌です。しかし、近年、A群だけでなくB群、C群およびG群の溶血性レンサ球菌も劇症型溶血性レンサ球菌感染症の原因菌として報告されています。
 原因となる病原菌の遺伝子型、血清型、病原因子などにより流行している病原菌のタイプや感染した人の基礎疾患、経過、治療方法および治療効果などが衛生微生物技術協議会レンサ球菌レファレンスセンターで調査・研究され、その結果は病気の早期診断および早期治療に役立てられています。

発生状況は
 劇症型溶血性レンサ球菌感染症は1987年、米国においてA群レンサ球菌による感染症で手足などに壊死を伴う重篤な病気としてはじめて報告されました。その後、ヨーロッパやアジアからも報告され、日本では1992年に千葉県の病院で確認された症例が最初の報告です。1999年3月以前の日本での発生状況は届出が義務化されていなかったので十分に把握されていませんでしたが、1999年4月に施行された感染症法では四類感染症に、また、2003年11月に改訂された感染症法では五類感染症に分類され、届出基準(表1http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-06.html)が示されています。届出が義務化されたことにより、1999年4月から2006年7月までの約7年間に全国で460例の届出(表2)があり、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の発生状況が明らかになってきています。
 滋賀県内における劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、1999年に1名、2002年に1名および2004年に1名、計3名の発生がありました。しかし、2005年12月〜2006年2月の短期間に新たに3名の患者が発生し、うち2名は発病後1〜3日後に死亡するという劇症的な経過でありました。次に具体的な症例として、短期間に発生した3名の経過概要を紹介します。

滋賀県での症例
 症例1:患者は33才男性で、基礎疾患にダウン症候群および糖尿病性腎症による慢性腎不全があり、週3回の通院透析を受けていました。2005年12月24日、透析中に発熱(39.8℃)し、帰宅後の22時頃に意識もうろう状態になり、緊急入院となりました。入院時の血圧は92mmHg(触診)、チアノーゼ(+)で、外傷等の皮膚病変は見られませんでした。12月25日の朝には更に血圧低下、ショック状態となり、意識障害が悪化して治療されましたが、症状に改善が見られませんでした。出血傾向が出現したため播種性血管内凝固症候群(DIC)も併発したと考えられ、ショック状態が改善されず12月27日に死亡しました。12月25日に行った血液の細菌検査でA群溶血性レンサ球菌が検出されました。検出された菌のT型はTB3264型、M蛋白遺伝子型はemm89.0型および発赤毒素遺伝子型はspeBというタイプでした。
 症例2:患者は32才女性で、妊婦でした。2005年12月25日から2006年1月10日まで切迫早産のため入院していましたが、妊娠37週4日目の1月19日に発熱および陣痛発来で再入院となりました。入院時体温39.1℃、血圧121/76mmHg、血小板23万/μlで、輸液および解熱剤を投与して分娩経過を観察していたところ、午後3時頃に胎児の心拍が停止し子宮内胎児死亡が確認されました。患者は出血傾向があり常位胎盤早期剥離が疑われたため、緊急手術により子宮全摘が行われました。術後、集中治療が行われましたが、DICを引き起こし1月20日に患者も死亡しました。1月19日に行った血液の細菌検査でA群溶血性レンサ球菌が検出されました。検出された菌のT型はT1型、M蛋白遺伝子型はemm1.0型および発赤毒素遺伝子型はspeA、speBでした。
 症例3:患者は45才女性で関節リウマチにより通院していました。2006年1月31日に高熱 (39.9℃)により近医に受診していましたが、2月2日に右下腿に皮下出血が認められ全身の関節痛が増強したため転院となりました。入院時体温39.2℃、血圧94/76mmHg、白血球数27,100/μl、CRP48.8g/dl、CPK28,731U/Lで、右下腿に蜂窩織炎と考えられる圧痛を伴う高度発赤腫脹が認められました。2月3日から乏尿となり急性腎不全に陥り、肝障害も認められ多臓器不全の状態となりました。2月5日には紫斑および血小板減少が認められDICが疑われました。2月5日に採取された膿からA群溶血性レンサ球菌が検出されました。検出された菌のT型はTB3264型、M蛋白遺伝子型はemm89.0型および発赤毒素遺伝子型はspeBでした。2月6日には右下腿の皮膚を切開して創部から排膿処置が行われました。入院当初は敗血症性ショックも疑われ容態が悪かったのですが、総合的な治療の結果、炎症反応は治まり、CPKも正常化しました。全身状態の改善傾向が見られたので、2月24日に皮膚科に転科となりました。
 今回の情報の一部は、2006年6月に感染研感染症情報センターが発行した病原微生物検出情報(IASR. Vol.27. 6, 2006 p157-158)にも報告しています。

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