2005年4月1日から1996年以来9年ぶりに旅行業法・約款が改正となり1年が過ぎた。こうした中で、「衛生問題」が次第に注目されるようになってきている。
従来の旅行業界においては、衛生問題はもとより、旅行中の健康障害については暗黙のうちに議論することが避けられていた。これは、「旅行とは楽しいもの」という考え方に基づくものであり、旅行中のマイナス面を議論することは旅行需要を低迷させてしまうためであると捉えられていたからである。もっとも、ここ2〜3年業界内の意識は大幅に変化してきた。これは、2003年のSARS、鳥インフルエンザの発生が旅行業界を未曾有の危機に陥れる原因となったことに加え、今回の旅行業法・約款の改正で「衛生情報」の旅行者への説明義務が旅行会社に課されたためである。ここでは2003年を契機に加えた法改正の動きと衛生問題について記述する。
<旅行業法・約款の改正>
衛生問題に入る前にこの背景となる旅行業法・約款の改正の内容を説明する。
まず「旅行業法」では、「企画旅行」という概念が創設された。従来の旅行業の定義は、「代理」、「媒介」、「取次」等によるいわゆる「斡旋業」であった。今回の改正では、旅行者のニーズの多様化(体験型、滞在型旅行など)に対応し、新たな旅行契約の態様として、従来の画一的な「主催旅行」に加え、旅行会社がアドバイスしながら旅行計画を作成する「オーダーメイド型旅行」を含め、「企画旅行契約」を設定した。今回の改正で旅行業者は旅行商品に「付加価値」を付与して、自由に「値付け」をして販売することが認められたのである。
一方、「約款」において旅行者と旅行業者のそれぞれの置かれた立場での「責任」と「権利」に関する諸規定が合理性・妥当性を有した範囲で策定された。前述した「企画旅行」の実施に伴い、旅行計画の作成から、旅行取引契約締結、計画通り旅行が円滑に実施できるよう行程管理や代替手配を行うこと(旅程管理業務)までが義務付けられた。
つまり、企画旅行という新しい概念でより付加価値の高い商品造成が可能になる一方で、必要な旅行会社の責任も拡充され、その一環に「衛生情報」の説明義務を位置づけることができる。
<衛生情報義務の内容と旅行会社の取り組み>
「衛生情報」の説明義務とはどのようなものか、安全情報も含んで以下に原文を掲載する。
「旅行の目的地を勘案して、旅行者が取得することが望ましい安全及び衛生に関する情報がある場合にあっては、その旨及び当該情報」(施行規則第25条3第1号ホ)
@海外旅行にあっては、外務省の提供する安全に関する情報及び厚生労働省の提供する感染症に関する情報に係るホームページアドレス及び関係部局の問い合わせ先を記載すること。さらに外務省から海外危険情報発出されている場合は、危険情報の発出地域である旨を記載した書面を交付し、それぞれの危険情報の趣旨、内容を十分説明すること。また、渡航先国が入国者に予防接種証明書を要求している場合は、必要とされる予防接種の種類及び当該予防接種の証明書を所持すべき旨を書面により通知すること。
Aその他、旅行の目的を勘案して、旅行業者の判断により、必要となる情報がある場合にあっては、その情報を旅行者に伝達するとともに、その具体的な入手方法について記載すること。
これに対し、一例として旅行会社が実際に徹底している内容を衛生情報に限って紹介する。
1.旅行条件書への記載
「渡航先の衛生情報については、厚生労働省検疫所感染症ホームページをご確認ください。」という文言を旅行条件書に掲載する。
2.上記@に掲載されているように、「渡航先国が入国者に予防接種証明書を要求している場合は、必要とされる予防接種の種類及び当該予防接種の証明書を所持すべき旨」旅行者に案内する。
<さらなる取り組みと今後の展望>
前項に記したように、旅行業法・約款改正による衛生情報の説明義務の発生を機に、現場においても、必要に伴う説明、書面通達は確実になされるようになってきた。
さらに、店頭において、お客様向けの情報提供の徹底を図るため、海外渡航者のための感染症情報に掲載された注意事項がある国を予約した場合に予約端末に"WARNING"を表示したり、あるいは販売店向け(旅行商品を提携販売先等)には、衛生情報、予防接種情報の確認方法を掲載する端末向け情報を発信したりと、情報提供漏れが発生しないような工夫も施され始めている。さらには、具体的な旅行外来(トラベルクリニック)の情報もこうした情報の中に組み込むような取り組みも散見されている。
しかしながら、衛生情報発信による旅行者のリスク認知から旅行外来へ、さらにトラベルワクチンの接種へと促すにはなお高い壁が存在する。
それには、まず旅行者の視点にたった感染症情報提供の強化による渡航先感染リスクの認知徹底により、旅行におけるワクチン接種行為が特別なものではないという意識を醸成する必要がある。旅行会社も同様である。
また、全国網羅されていない旅行外来といった専門部所の増設が必要である。利便性はもちろんのこと、時間的、コスト的な問題がワクチン接種を阻害しているという面もある。その上で、流通拡大による低廉なワクチン価格が望まれるところである。
今後は、本フォーラム参加者の皆様とともに、啓発活動を徹底し、旅行者の感染リスクの低減につながる活動を展開していきたい。
参考文献
「新旅行業法・約款」について
〜付加価値創造産業としての旅行業をめざして〜
(社)日本旅行業協会、(社)全国旅行業協会
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