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Word Focus TOPページへ戻るNo.75          (第5回トラベラーズワクチンフォーラム報告)
  <<トピックス>>    
  コ   レ   ラ 
  横浜市立市民病院感染症部  
  部 長    相 楽 裕 子

概念
 コレラは血清型O1型およびO139型コレラ菌のうち、コレラ毒素産生株によって起こる急性胃腸炎である。典型例では、通常2〜3日の潜伏期間を経て、水様性下痢と嘔吐が突然始まり、水・電解質の喪失により急速に脱水・アシドーシスに陥る。腹痛はなく、体温はむしろ低下する。便は‘米のとぎ汁様’で体液の喪失は1L/時間を超え、‘コレラ顔貌’や‘洗濯婦の手’、嗄声、腓腹筋痙攣、意識障害、痙攣などの脱水症状を呈し、急性循環不全、急性腎不全に至る。腹痛や発熱がないため医療機関への受診が遅れる傾向がある。国内では軽症例が多いが、高齢者、小児、胃切除者、制酸薬・抗潰瘍薬服用者では無酸・低酸のため重症化しやすい。検査データでは、高度の脱水により、ヘマトクリット値、血色素量(Hb)、血清総蛋白(TP)、尿素窒素(BUN)、クレアチニン(CRN)の上昇、代謝性アシドーシスがみられる。白血球数(WBC)は増加するが、CRPは増加しない。治療の基本は輸液と抗菌薬による全身状態の改善と除菌および二次感染防止である。輸液を最優先するが、抗菌薬は下痢期間短縮、早期排菌停止の効果がある。国内ではヒトからヒトへの感染の例はほとんどない。検疫伝染病であり、自国内で患者が発生すると各国はWHOに報告の義務がある。我が国では1999年に改正施行された感染症法で2類感染症に分類された。保健所への届け出は必要であるが、症状がなければ命令入院の対象とはならず、外来治療が可能である。

我国のコレラの現状
 1999年以降コレラの年間届け出数は30〜80例である。現在では国外感染例が80%以上を占める輸入感染症である。我が国では主に東南アジアにおける海外感染例が多いが、輸入食品由来と考えられる国内例も発生している。1999年以降4件19名の食中毒届け出がある。上記のように、最近では軽症例が多いが、胃切除者や慢性胃疾患者では無酸・低酸のため重篤になりやすく、数少ない国内での死亡例はこのような患者である。年令分布は、国外例では20代をピークに幅広い年齢層にほぼ均等に分布しているのに対し、国内例では45歳以上に集中している(図1)(IASR 23: 219-220, 2002)。2004年にはフィリピンでの感染例が増えた(図2)(IDWR)。

症例呈示
1)30代アフリカ人男性
 仕事のため1月29日に横浜に到着した。午後8時頃から悪心、嘔吐、水様下痢が出現、1月30日午前1時に救急車で来院した。来院時体温35.6℃、血圧触知せず、コレラ様顔貌、洗濯婦の手を呈していた。激しい筋肉痛を訴え、水様透明から米のとぎ汁様の排便があった。検査データはWBC 22,000/μL, Hb 20.4g/dL, TP 13.4g/dL, CRN 3.4mg/dL, BUN 30.1 mg/dL, CRP 3.9 mg/dL, pH 7.292,糞便中Na + 143 mEq/L,K+ 12.7 mEq/L,Cl - 126 mEq/Lであった。急性脱水症の診断で大量の乳酸リンゲル液が静脈内投与された。30分〜1時間毎に上記のような排便があり、1日約15Lに及んだ。1日12Lの輸液を3日間行い、脱水は軽快した。1月31日午後、入院時の便培養から稲葉型コレラ菌が検出され、レボフロキサシン300rの3日間投与を開始した。同日夕刻、横浜市衛生研究所に依頼していた検査で菌はコレラ毒素産生性、生物型がエルトール型と判明、保健所に届け出を行った。2月1日から菌は陰性化、2月5日から下痢が消失、2月7日退院した。
2)50代日本人男性 糖尿病治療中。6月14日から17日までフィリピンに出張。16日に日本料理店で刺し身を食べた。17日夜から嘔吐、水様性下痢6〜7回、18日深夜から下肢脱力・筋肉痛が出現した。夜間救急病院で輸液を受けたが排尿なく、血圧低下のため、コレラ疑いで転送された。体温35.7℃、血圧74/54であった。検査データはWBC 19700, Hb18。8, TP 10.7, CRN 4.1, BUN 24.1, CRP 3.1,血糖354 mg/dLであった。1回量1Lを超える水様便を排出していた。大量の乳酸リンゲル液が静脈内投与され、最初の24時間は20Lに及んだ。当日夕方からレボフロキサシン300rの3日間投与を開始した。21日には下痢が軽快、25日退院した。検出菌はエルトール小川型、コレラ毒素陽性であった。安心できる店だから大丈夫といわれ、現地で刺し身を食べたとのことだった。
3)20代日本人女性 4月12日から19日までタイ・プーケット島に旅行。水泳、シュノーケルなどをした。17日夕に生カキを食べた。19日から水様性下痢5〜6回、悪心、嘔吐3〜4回が出現、近医を経て21日入院した。体重が50kgから41kgに減少した。乳酸リンゲル液輸液とレボフロキサシン300rの3日間投与で軽快、24日退院した。検出菌はエルトール稲葉型、コレラ毒素陽性であった。ノロウイルスは陰性だった。周囲の人々も食べていたので特に疑わずに生カキを食べたとのことだった。
4)50代日本人男性 海外渡航歴なし。4月27日会社の仲間と外食、刺し身を食べた。30日深夜から20回以上の水様性下痢が出現、嘔吐、腹痛はなかった。自宅療養していたが改善せず、5月2日近医受診、輸液とホスホマイシンの点滴を受けた。6日には下痢は2〜3回となった。7日便培養でコレラ菌が検出されたため紹介受診した。エルトール小川型コレラ毒素陽性株であった。下痢は軽快していたため、レボフロキサシン300rの3日間投与で外来治療を行った。終了後14日、15日の両日便培養でコレラ菌陰性を確認、保健所に連絡した。食中毒疑いで疫学調査が行われたが感染源は不明であった。

治療
 コレラの治療では輸液を最優先し、たとえ脱水症状があっても早期に医療機関を受診すれば、現在の我が国の医療水準では適切な治療が受けられる状況にある。日常診療の中で3Lを超える輸液はまれであるが、コレラでは5〜10L、さらにそれ以上の輸液を必要とする事例がある。WHOによるコレラの輸液ガイドラインがある。脱水が高度の場合には乳酸リンゲル液100mL/sを3時間(1歳未満6時間)で輸液する。脱水がなくなるまで維持輸液を行う。有脱水の場合には経口輸液(oral rehydration solution, ORS)が推奨されている。簡便な輸液法として途上国で汎用され、効果を挙げている。電解質としては、Na+ 90mEq, K+ 20mEq, Cl- 80mEq, HCO3- 30mEqである。我が国では普及していない。軽症の場合にはスポーツ飲料でよい。現在脱水がなくても10歳以上であれば2L/日の経口輸液が薦められる。
 推奨される抗菌薬は、海外ではテトラサイクリン(TC)、 スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤(ST)、小児ではエリスロマイシンであるが、我が国では主にニューキノロン系薬が選択されている。理由は近年時折みられるTC, ST耐性菌にも有効であること、旅行者下痢症に汎用されており、診断確定時にはすでに本薬が投与されていることが多いこと、国内の下痢症診療ではTCは一般的でないことなどによる。再排菌はほとんどみられない。抗菌薬終了後48時間以降24時間以上の間隔で連続2回便培養が陰性であれば病原体をもたない、すなわち治癒とみなされる。

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