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     <<トピックス>>
      髄膜炎菌感染症
             
         
      川崎医科大学小児科  教授 尾 内 一 信 

はじめに
 髄膜炎菌感染症(Neisseria meningitidies)は日本では経験することが少なくなった疾患であるが、世界各所で流行し毎年10万人以上が死亡する忘れてはならない疾患である。世界的に見て日本は罹患数が少ない。しかし、特別な対策をとっているわけではなく、いつ流行してもおかしくない状況である。突発的な流行に備えてサーべーランスやワクチンの準備などの対策が日頃から必要である。予防可能な疾患であるため、流行地への渡航者は自己防衛のためにワクチン接種が勧められる。しかし、髄膜炎菌ワクチンは日本では未認可であり、流行地への渡航者や突発的流行時など必要なときに使用できるような体制の整備が急務である。

髄膜炎菌感染症
 本菌はグラム陰性双球菌であり、人のみ保菌し感染する。感染源は、人の気道分泌物であり、飛沫感染する。潜伏期間は1〜10日で、多くは3〜4日である。6カ月以降の小児が罹患しやすいが、約1/3は成人例である。病型は、髄膜炎、菌血症、敗血症、肺炎などの呼吸器感染症、関節炎、尿道炎、心内膜炎などであり、感染部位は全身諸臓器に及ぶ。敗血症は特にWaterhouse-Friedrichsen症候群と名付けられており、非常に死亡率が高い(18〜55%)。突然の発熱、筋肉痛、頭痛で発症し、痙攣、嘔吐、下痢、発疹を伴い短時間(6〜36時間)に意識障害、DIC、多臓器不全、死亡に至る。髄膜炎の死亡率は日本では5%程度である。血清型が少なくとも13種(A,B,C,D,X,Y,Z,E,W-135,H,I,K,L)以上あり、このうちA,B,C,Y,W-135の5血清型で世界の髄膜炎菌感染症の90%以上を占める。髄膜炎菌感染症の特筆すべきことは、流行することである。
日本においては、髄膜炎菌感染症は感染症の 予防と法律で第4類感染症に分類され、全数把握の疾患であり、本疾患を経験した臨床医は7日以内に保健所に報告義務がある。
 髄膜炎菌感染症の診断は、感染部位や血液・髄液からの分離培養による。しかし、髄膜炎菌は検体の管理がよくないと分離が困難であり、検体を冷蔵庫に入れないことや検体を迅速に検査室に届けるなど注意が必要である。検体の管理が悪いと髄液培養の感度は悪い。また、抗菌薬が既に投与されていると陰性になることも多い。培養陰性でありながら、髄液のグラム染色で診断がつく場合も多い。ラテックス凝集法は感度と特異度が良くない。したがって、日本の約100倍以上の患者数が発生している英国では、感度の良い型別のPCR法が日常検査として行われている。
 髄膜炎菌感染症の治療は、表1に示す。投与期間は5〜7日である。近年、欧米やアフリカではペニシリンのMIC0.1〜1ug/mlの軽度耐性株が増加しており、ペニシリン系抗菌薬が選択できない地域が増加している。

キャリアーと2次感染リスク
 髄膜炎菌キャリアーは日本では0~5%、諸外国では5〜15%、流行地域では20〜50%に達する。日本では諸外国に比べてキャリアーも少ないため罹患率が少ないと考えられる。感染してキャリアーになるか発病するかは、基礎免疫の影響を受ける。髄膜炎菌に対する免疫は、腸内細菌や他のナイセリア属との抗原交差性により年齢とともに徐々に獲得すると考えられる。また母親からの移行抗体のため、生後6ヵ月までの発症が少ない。キャリアー率を上昇させる因子としては流行、喫煙、ウイルス感染、軍隊や大学宿舎などの狭い居住空間などがある。同居家族や保育園などの集団では濃厚な接触があり、2次感染のリスクが500〜4000倍に上昇する。

髄膜炎感染症の予防
 髄膜炎菌感染症は、ワクチンと抗菌薬で予防できる。抗菌薬による予防は、2次感染リスクの高い家族、発症前7日以内の濃厚接触者が対象となる。7日以内に2次感染の50%以上が発症するため、できるだけ24時間以内に開始する。薬剤は表2に示す。
 精製莢膜多糖体ワクチンは、主に2種類(2価A,Cと4価A,C,Y,W-135)が世界に流通している。成人や年長児では免疫の獲得がよいが、2歳未満では効果が期待できない。1回接種で7〜10日後効果がでる。予防効果は79~100%である。2歳未満にも効果があるコンジュゲートワクチンが現在欧米で開発中である。 髄膜炎菌ワクチン接種が推奨される場合を表3に示す。

日本と世界の現状
 人口10万人対の罹患率は、日本、欧米、アフリカ髄膜炎ベルト地帯(図1)ではそれぞれ0.01、1、10〜70と地域差がある。欧米においても日本の100倍以上、アフリカ髄膜炎ベルト地帯では、1000倍以上の罹患率である。日本では年間約10例の報告数であるが、米国では約3000例と多い。日本でも1950年頃は年間4000例以上報告されていたが、1980年以降に現在の程度になった。アフリカ髄膜炎ベルト地帯では、10年周期で流行があり流行時には人口10万人対の罹患率が500を超える。罹患率の高いアフリカ、中東、ネパールなどに渡航する時は、髄膜炎菌ワクチンの接種が望まれる。近年イスラム教のメッカ巡礼を介して世界的大流行に関与する事例が多いため、サウジアラビア入国に本菌ワクチン接種が義務化されている。

今後の対策
 表4に流行時の標準的な対策を示す。髄膜炎菌ワクチンは日本では未認可であるため、流行地への渡航者や突発的流行時など必要なときに使用できるように輸入や備蓄など体制の整備が急務である。

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