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Word Focus TOPページへ戻る No.35

                 《トピックス》
                カリニ肺炎とAIDS

             
             
京都府立医科大学助教授 塩田 恒三

カリニ肺炎の歴史と現状
 カリニは直径約5 μmの単細胞生物で、Chagas(1909年)とCarini(1910年)が初めてトリパノソーマ感染動物の肺に見出し、トリパノソーマの1発育期と考えた。ところがDelanoe and Delanoe(1912年)はトリパノソーマに感染していない動物の肺に同じ病原体を見つけ、Pneumocystis cariniiと命名して新種記載した。1930年代と1940年代に戦争で疲弊したヨーロッパで、栄養失調児の間で間質性形質細胞性肺炎の流行が起こって多数の死者が出たが、後にカリニが原因であることが明らかになった。その後カリニは先天性免疫不全や免疫抑制剤の投与を受けた患者に発症する肺炎の主原因であることが判明した。1980年代から、カリニ肺炎はAIDS、癌の治療や臓器移植の患者の増加と共に爆発的に増加して典型的は日和見感染症として注目されるようになった。カリニのribosomal RNA 塩基の解析では原虫より真菌に相同性が高いことから、カリニを真菌と見なす傾向があるが、現在分類学上の位置は不明である。
カリニ肺炎の病態
 カリニにの嚢子と栄養型は、空気感染で肺胞腔に到達し、肺胞上皮に接着して8倍の増殖法を行う。AIDSや免疫抑制剤の投与等による免疫不全状態の患者では、肺胞マクロファージの貪食能の低下によりカリニは肺胞腔内で増殖して、A-Cブロックに起因する呼吸不全を起こす。カリニ肺炎の特徴は、両側性、瀰漫性に起こり、間質性?スリガラス状胸部X線像の変化と動脈血酸素分圧の著しい低下(100mmHg→50mmHg)である。発病は急激で数日の間に呼吸不全に陥る例が多く、治療をしないと致死的である。ただし、AIDS患者では緩徐に進行する。早期診断、治療、予防は可能である。
カリニ肺炎の診断
 診断は免疫不全状態の患者に認める上記症状に加え、BALF、気道吸引物、喀痰から嚢子を検出する細胞診を行う。メテナミン銀染色あるいはcellufluor (calcofluor white) 蛍光色素染色ではカリニの嚢子壁に含まれる多糖に銀あるいは蛍光色素が結合して嚢子壁が染まる。特にカリニに特有の嚢子壁の二カ所の肥厚部が、いわゆる「括弧状構造物」として明瞭に染まるため、アスペルギルス、カンジダ、クリプトコッカス等の真菌類と鑑別できる。米国ではカリニ嚢子と栄養型に反応するモノクロナール抗体を用いた蛍光染色法が開発され、NIH等で用いられている。PCR法は感度、特異性ともに高く、カリニが少数で細胞診では検出限界以下の感染初期の検体等であっても検出できる。また侵襲の少ない方法で得られる口腔洗浄液やうがい液などにも用いることができると思われる。カリニ嚢子壁の成分が真菌類と共通するβ-D-グルカンを含んでいることから、内臓真菌症の有用な指標である血清β-D-グルカンのカリニ肺炎診断における有用性も示唆される。しかし真菌類の合併に加え、種種の要因で疑陽性が出現する可能性がある。
カリニ肺炎の治療と予防
 カリニ肺炎の治療にはST合剤(スルファメトキサゾール400mg+トリメトプリム80mg)12錠または12 アンプル/日、14日間連用する。本合剤ではカリニの葉酸生合成阻害と葉酸活性化阻害による抗菌作用の併用により、葉酸代謝の連続した2カ所を同時阻害し相乗抗菌作用が増大する。副作用として骨髄抑制、肝障害、腎障害、消化器症状が現れることがある。AIDS患者ではさらに、全身の発疹、発熱などの過敏症状が強く現れることがある。ST合剤で治療を受けたカリニ肺炎発症AIDS患者から得たカリニの葉酸合成に関わる酵素(DHPS)遺伝子の一部に変異が見出された。この遺伝子はスルファメトキサゾールのターゲットであることから、ST合剤抵抗のカリニ肺炎の存在が示唆されるが、今日までそのような症例の報告はない。他の治療薬としてペンタミジン4mg/Kg/日、点滴静注、14日間連用。何れの薬剤も肺炎症状の改善を認めれば漸減する。予防にはST 合剤を1日1〜2錠を毎日服用する。HIV感染者では末梢血のCD4T細胞数が200個/ μl以下(正常値は1000個/ μl)になるとカリニ肺炎発症リスクが高くなるため、ST合剤1回2錠を週3回服用して発症予防する。しかしその内30%の患者では副作用のためペンタミジンの吸入(300mg、 2週間に1回)などに変えられている。ペンタミジンの吸入は、肺胞腔内に留まり体内に吸収されにくいことから、直接カリニに働くと共に副作用も少ないとされている。しかし、肺上葉の末梢への浸透は悪く、発症の原因の1つにもなっている。カリニ肺炎が軽快したAIDS患者が強力な抗HIV療法(HAART)を受けて末梢血のCD4T細胞数が200個/μl以上に増加した例では、予防薬投与を中断しても発症しない例が報告されているが、患者が他の慢性疾患に罹患あるいは高齢の例では再発(再燃)が認められている。
今後の問題
 カリニ肺炎の治療薬、予防薬があるにも関わらず、米国や日本のAIDS患者の36%がカリニ肺炎に感染している。そしてカリニ肺炎はエイズ指標疾患の中で最も感染率が高く、日本では1996年頃よりHAARTが導入されているにも関わらず減少していない。また、臓器移植後長年月経過した患者にカリニ肺炎の発症が認められることから、免疫不全状態が持続する患者においては常にカリニ肺炎に注意が必要である。カリニの純培養が成功していないことと、生活史も完全に解明されていないことは、副作用の少ない治療薬の開発や、分類学上の位置決定の困難さに関わっているように思える。カリニは常にヒトの中に潜んで温々と暮らす、したたかな生物であるように思われる。

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