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Word Focus TOPページへ戻る No.17
腸チフス ・ パラチフス

国立感染症研究所
細菌部 廣瀬 健二 

 腸チフス・パラチフスは一般のサルモネラ感染症 (サルモネラによる食中毒など) とは区別され、 チフス性疾患と総称される。 腸チフス・パラチフスは、 チフス菌 (Salmonella Typhi )・パラチフスA菌 (Salmonella Paratyphi A) の感染による発熱を主症状とした敗血症と下痢・腸管出血などの腸管の病変を特徴とする疾患である。
 1999 年 4 月から施行された感染症新法では、 腸チフス・パラチフスは第二類感染症に指定され、 患者、 疑似症患者および無症状病原体保有者 (保菌者) を診断した医師は、 速やかに保健所長を通じて都道府県知事に届け出るように決められている。 患者は感染症指定医療機関に入院し治療を行うが、 無症状保菌者は入院の対象とはならない。 また、 学校保健法では、 第一種伝染病に分類されているが、 感染症新法で 2 類感染症に指定されていることより、 患者は原則として感染症指定医療機関に入院するので、 治癒するまで出席停止となる。

疫 学
 腸チフス・パラチフスは現在でも、 日本を除く東アジア、 東南アジア、 インド亜大陸、 中東、 東欧、 中南米、 アフリカなどに蔓延し、 流行を繰り返している。 わが国でも昭和初期から終戦直後までは腸チフスが年間約 4 万人、 パラチフスは約 5 千人の発生があり、 死亡者もみられていた。 しかし、 その後環境衛生状態の改善によって 1970 年代までに年間約 400 例の発生まで減少した。 その後、 1990 年代に入ってからはさらに減少し、 腸チフス・パラチフスを併せて年間約 100 例程度で推移している。 しかしながら、 日本国内に由来する発生例は減少しているものの、 海外からの輸入事例はむしろ増加傾向にある。
 1990 年代に入ってからの、 腸チフス・パラチフスの集団発生は、 1993 年に首都圏で 50 名の腸チフス患者、 1993 年から 1994 年にかけて関東地方で 34 名のパラチフス患者、 1994 年には近畿地方で 34 名のパラチフス患者、 1998 年には関東地方で約 20 名のパラチフス患者による集団発生があった。 腸チフス・パラチフスは日本で少なくなったとはいえ、 ときどきこのように集団発生が起こることがある。 集団発生の原因は、 菌に汚染された飲食物の摂取、 患者・保菌者を介して起こることが多い。 年間数例ではあるが、 保菌者を介して感染したと思われる家族内感染がみられる。 家族内感染では、 保菌者である高齢の老人から、 同居している小中学生、 幼児などの低年齢者がチフス菌やパラチフス A 菌に感染し発症するケースがみられている。
 日本での腸チフスパラチフス患者を年齢別に診てみると 20 歳代が最も多い。 さらに、 ほとんどが海外渡航歴があり、 海外旅行に出かけた時に現地で感染したものと思われる。 渡航先は、 インド、 タイ、 インドネシア、 アフリカ大陸が多い。

病原体 
  チフス菌およびパラチフスA菌はグラム陰性桿菌で周毛性鞭毛を持ち運動性がある。 両菌はともに宿主特異性がありヒトにのみ感染し、 病気を起こす。 患者や保菌者の糞便で汚染された食物や水が媒介体となる。 感染源がヒトに限られているため、 衛生水準の向上とともに発生頻度は減少する。

臨床症状   
  腸チフスとパラチフスは臨床症状はほとんど同じであるが、 パラチフスは腸チフスに比較して一般的に症状は軽い。 通常 10-14 日の潜伏期の後に段階的に体温が上昇し 39-40℃に達する。 持続する 39-40℃の発熱以外に特異的な症状はない。 比較的徐脈、 バラ疹、 脾腫が 3 大徴候であるが、 必ずしも出現するとはかぎらない。 重症な場合では、 意識障害、 腸穿孔を引き起こすことがある。 未治療の場合、 発熱は四週間以上にわたって続く。

腸チフス・パラチフスの治療  
  熱帯、 亜熱帯地域からの帰国者や入国者に発熱が見られる場合、 マラリア、 デング熱、 ラッサ熱、 腸チフス、 パラチフスなどが考えられる。 これらの病気は通常日本には存在しないか、 まれなので、 具合が悪いからと病院で受診しても、 医師は外国で感染することが多いこれらの病気には考えが至らず、 診断が遅れ、 適切な治療が行われず、 患者は長い間高熱で苦しまなければならないといったことは少なくない。 海外旅行から帰国後 2 ヶ月程度は、 体調に異常があれば早めに医療機関を受診し、 海外へ行ったことを必ず医師に告げた上で受診することが大切である。 腸チフス・パラチフスは、 ニューキノロン剤などの抗生物質を2週間程度投与すれば治癒する。 ところが、 治療後、 健康保菌者となる場合もある。 保菌者は無症状であるが、 長期間にわたって体内 (多くは胆嚢) にチフス菌やパラチフス A 菌を保菌した状態となり、 それが時には排菌され、 家族内感染や集団発生の原因となることがある。

治療に抵抗する薬剤耐性菌  
  インド亜大陸、 タイへの渡航者からアンピシリン、 クロラムフェニコールなど従来腸チフスの治療に使われていた抗生物質が効かない薬剤耐性チフス菌やパラチフス A 菌が日本国内でも多数分離されている。 現在、 腸チフス・パラチフスの治療の第1選択薬であるニューキノロン剤にも耐性を持つ株の存在が外国で報告されている。 国立感染症研究所の調査によると、 現在、 国内でも、 ニューキノロン剤に対する感受性が低下し、 ニューキノロン剤が効きにくいチフス菌やパラチフス A 菌がすでに日本国内で分離されている。 さらに、 ニューキノロン剤を投与しても速やかに解熱しない症例も国内ですでに報告されている。 海外旅行で感染しないためには  東南アジアやインドへ海外旅行に行き、 赤痢、 コレラ、 腸チフス、 パラチフスなどの下痢性疾患にかかる人は多い。 これらのほとんどは、 飲食物を介した感染である。 このような病気にかからないためには、 現地ではあらゆる食べ物に注意が必要である。 生水 (水道水) は絶対に飲まない。 ミネラルウォーターなどビンや缶に入ったものを買う。 水道水から作った氷を使用していることが多いので、 バーやレストランでは、 氷入りの飲み物には注意をする。 肉や魚は、 充分に火の通ったものを、 熱いうちに食べるようにする。 日本人には生や半生を好む人が多いが、 感染の危険が大きくなる。 生野菜は避け、 火を通したものを食べる。 果物は、 皮をむくまでは衛生的だが、 皮をむいて食べるまで長時間放置されていると思われるカットフルーツは食べないようにする。 以上のことに 注意をすれば、 赤痢、 コレラ、 腸チフス、 パラチフスなどの下痢性疾患にはまず感染しないであろう。

訃 報  
  当研究会員、 片岡哲朗先生 ( 67 才) にはかねてご療養中のところ、 去る 12 月 6 日にご逝去されました。 「ワールド ・ フォーカス」 にとりましても、 今後共ご尽力頂けるものと全快を心待ちにしておりましたのに残念の極みでございます。  ここに慎んで先生のご冥福をお祈り申し上げます。

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