シラミの種類と被害
ヒトに寄生して吸血するするシラミ類には、 衣類に寄生するコロモジラミ、 Pediculus humanus、 頭部に寄生するアタマジラミ、
P. capitis、 主に陰毛に寄生するケジラミ、 Pthirus pubis の3種ある。 コロモジラミは躯体の接触や衣類等を介して、
アタマジラミでは頭髪と頭髪の接触、 ケジラミでは性行為が主な感染経路である。 コロモジラミは発疹チフスのリケッチア、 Rickettsia
prowazekii や、 回帰熱のスピロヘータ、 Borrelia recurrentis、 あるいは塹壕熱の桿菌、 Bortanella
quintana 等の病原体を媒介する。 アタマジラミ、 ケジラミは病原体の媒介には直接関与しないが、 その寄生による激しい掻痒感や、
精神的なストレスが問題となる。
グローバルなシラミ症の再流行
これら 3 種のシラミ類は世界中に広く分布し、 季節に関係なく一年中発生する。 したがって、 公衆衛生状態が悪く、 有効な殺虫剤もなかった
20 世紀前半 (第二次世界大戦以前) では、 シラミ症は発生規模に差こそあれ、 世界中どこの国でもごく一般的な疾病であった。
しかし、 第二次大戦以降では衛生状態に改善とDDT等の殺虫剤の利用により、 先進諸国ではシラミ症は激減した。 ところが近年、
先進諸国においても子供達を中心として、 アタマジラミ症が再興し、 この感染症に対しては単なる貧困や衛生状態の悪化によって流行する疾病ではないとの位置づけが求められている。
我が国のシラミ症の再流行
我が国でも、 第 2 次世界大戦後の混乱期にはシラミ症の蔓延を見たが、 徹底した DDT 等の殺虫剤による有効な駆除と、
公衆・環境衛生の改善により、 シラミ症は激減した。 しかし、 1971 年の DDT 等の禁止を境にして、 学童や園児にアタマジラミ症の集団発生が見られるようになった。
1982年には厚生省集計の報告数は 2 万 4 千人を越えたが、 ピレスロイド殺虫剤を主成分としたシラミ駆除薬 (フェノトリン・パウダー剤、
1998年よりシャンプー剤が追加される) が販売されて、 急速に減少した。 1990年代になると再び増加傾向を示し、 1999年では前年の
44 %増となっている。 特に、 保育所、 幼稚園児、 小学校児童等の低年齢層に罹患者が多いのがその特徴である。 さらに最近、
コロモジラミ症もホームレス、 独居老人等に増えつつある。
このように我が国でコロモジラミ症がホームレスに、 アタマジラミ症が子供達の間に広く発生しつつあることは、 欧米先進国の傾向と同様である。
報告数がつかみにくいケジラミ症も、 近年では増加傾向にあり、 ケジラミ症罹患は他の性感染症罹患と相関性が高いとされていることから、
ケジラミ症の増加はSTD (性病) 全体の増加傾向の反映とも考えられている。 このことから WHO はケジラミ症の患者に対しては、
他の性感染症検査の実施も勧めている。
シラミと感染症
近年、 コロモジラミが媒介する感染症の再興がアフリカ諸国の劣悪な衛生環境で生活している人々や、 先進国のホームレスの間でおこっている。
1995年アフリカのブルンジの刑務所でコロモジラミの蔓延と同時に発疹チフスが流行した。 その時、 患者に寄生していたコロモジラミの
25 %から病原体リケッチアが検出されている。 ロシアでも政治体制の変革に伴って発疹チフスが再興し、 1991年にはエチオピアで回帰熱の流行が認められた。
さらに、 一部先進国のホームレスに塹壕熱患者が増加しつつある。 このような状況の下で、 今後、 世界的にシラミ媒介性疾患の疫学調査を積極的に行う必要性が求められつつある。
おわりに
現在、 先進諸国においても、 コロモジラミがホームレスの人々の間に、 アタマジラミが子供達の間に広く発生している。 とくに、
先進諸国のアタマジラミ症の流行は、 コロモジラミの発生原因である貧しさ、 衛生状態の悪化等が、 その原因ではない。 アタマジラミ症は人々の生活・行動パターンで変化する都市特有の公衆衛生問題であるとの視点から捉えることが必要である。
我が国でアタマジラミ症が増えている要因として考えられることは、 ヒトの交流が顕著に増えたことによる海外からの移入、 シラミを知らない世代の増加でシラミ寄生に無防備なこと、
1種類のシラミ駆除薬剤の長期間使用による薬剤抵抗性発達の可能性等、 複合的な要因が考えられる。
適切なシラミ症対策のため、 またシラミ症罹患により生じやすい教育現場での差別問題等をさけるためにも、 シラミ症に関する適切な情報提供と教育が、
医師、 教育関係者、 地域の公衆衛生担当者そして家族の協力のもとに広範な公衆衛生活動の一貫として実施されることが求められる。